一か月後、“再教育”中の希明に会いにC区の病院を訪れた。個室のベッドに座っていた希明の顔面には大きな青痣があり、うつろな黒目は現実を捉えきれずか弱く震えていた。 口元には唾液と吐瀉物がこびりつき、腐った果物のような臭いが部屋に充満していた。

「この国は終わりだ。こんな拷問がまかり通っていいわけない」

あの日、ライブハウスで見た眼光の鋭さはすっかり淀み、首根っこを掴まれたハクビシンのように弱々しく呻いた。

「更生はまだまだ先みたいですね」

そう言うと歪んだ瞼をいっそう歪ませ私を睨んだ。

「暴力で言葉を奪えると思うなよ」

私のため息は真っ白な病室の壁を上滑りし

た。

「何故、醜い言葉を使うのです?」

「何故、言葉を殺す?何故、言葉を憎む?」

私は椅子に座った。パイプ椅子が「くそったれ」と軋んだ。

「私は幼い頃から罵られ、侮辱されて育った。だからこういう人間になった。言葉を憎む人間を作ったのは言葉だ」

「言葉を憎む人間を作ったのが言葉だとしたら、人は言葉で変われる。人を殺す言葉もあれば、人を生かす言葉もある」

「あなたが人を救うというの? 今巷で溢れるあの醜い、下品で卑猥で低俗な言葉達が人々を救うというの? 馬鹿馬鹿しい」

「少なくとも、言葉でしか人は変われない。 言葉を殺すということは変わる機会を殺すということだ。言葉は自由でなければならない。君は言葉を殺すことで、君自身の未来を殺しているんだ」

「お前に何が分かる。やはりあの時死ぬべきだった」

「今のは“テンプレート逸脱”じゃないか? 君の頭の中は自由な言葉で満たされているじゃないか」

私は怒っていた。

「言葉で君という人間が出来上がったのなら、これからの君を変えるのも言葉のはずだ。その証明を君はすでに持っている」

私は怒りに耐えかねて立ち上がった。そして苦し紛れに言った。